最高裁判所第三小法廷 昭和48年(行ツ)17号 判決 1973年10月02日
徳島市中徳島町一丁目六六の九
上告人
高橋重行
徳島市幸町三丁目六〇番
被上告人
徳島税務署長 佐藤信次
右当事者間の高松高等裁判所昭和四七年(行コ)第二号贈与税課税処分取消等請求事件について、同裁判所が昭和四七年一〇月三一日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由について。
課税処分が当然無効であるというためには、処分に重大かつ明白な瑕疵が存することを要するものと解すべきであり(最高裁昭和二五年(オ)第二〇六号同三一年七月一八日大法廷判決・民集一〇巻七号八九〇頁、同昭和三五年(オ)第七五九号同三六年三月七日第三小法廷判決・民集一五巻三号三八一頁各参照)、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)が、その適法に確定した事実関係のもとにおいて、右と同じ見解に立つて本件課税処分を無効とはいえないとした判断は、正当として首肯することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高辻正己 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝 裁判官 江里口清雄)
上告人の上告理由
原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令違背がある。
原判決は、
(一) 本件の如き課税処分は、課税対象の実相に即してなされるベきであり、財貨の移動を微表する外形的現象が存するからといつて、軽々しく課税処分をなすベきものでなく、慎重な調査判定が要請せられるべきことはいうまでもないのであつて、本件の如き課税対象に関する誤認は、重大な瑕疵と評されなければならない。
(二) しかしながら、右の瑕疵により本件課税処分が無効であるとするためには、同瑕疵が処分成立の当初から、その処分の外形上、客観的に明白である場合でなければならないのであり、その判定に当つては、処分庁が怠慢により調査すべき資料を見落したかどうかといつた瑕疵の原因となつた事情の有無などは斟酌されず、当該瑕疵が一見して看取しうるものであつたかどうかによるべきものと解すべきである。とし、本件の場合は、その瑕疵が一見して看取しえなかつた。したがつて,本件課税処分における被控訴人の課税対象に関する誤認をもつて、本件処分の無効原因とすることはできない。と判断している。
しかし、行政行為の無効原因を重大且つ明白なものに限定することは、当該行政行為によつて権利、利益を得た第三者の保護には厚くなるが、行政行為の中には本件課税処分のように第三者の権利、利益保護の必要の伴わないものも多く、これらを瑕疵の明白性という単一、一律の基準で識別することは当を得たものということはできない。
従つて、行政行為の無効原因としては、重大な瑕疵のあることを最小限とし、第三者の権利、利益保護の必要性の有無等私法的法律秩序維持による制約等を最大限とし、私人の司法救済に重点を置くベきものと考える。
原判決のように、行政行為の無効原因を重大且つ明白な瑕疵のある場合のみとすることは、行政事件について司法裁判所の管轄権を認めない裁判制度の下においては妥当なものは言えるが、行政事件についても司法裁判所の管轄権を認める現在の裁判制度の下においては妥当なものとは言えない。
行政行為の無効原因は右のとおりであるものと考えるので、本件課税処分は無効であると解する。よつて、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令違背がある。
以上